スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2010年12月7日(火) 若松監督「キャタピラー(軍神)」を観に行く

キャタピラーポスター

サン ミッシェル近くの小さな映画館で若松孝二監督の「キャタピラー(仏題は『軍神』)を観た。若松監督には前回「実録連合赤軍」の映画の前(2年以上になるかな)に再会した。最初のきっかけは「天使の恍惚」と「ゆけゆけ二度目の処女」という映画をサンドニ映画祭の時に観て、その時パリにいらした監督に電話をしてしまったことだ。初めて映画を観た時に、例えようのない衝撃を受けた。そして図々しくも、(どうしても会いたい!)と思ってしまったのだった。しかし、お会いしてもっとびっくりしたのは「撮った後の映画はもう観ないし覚えていない」と仰っていたことだ。この映画も「連合赤軍」を撮っている時にもう構想が頭にあったという。常に先のことを考えているエネルギーがあるのだ。いつも熱い怒りを映画にぶつけている印象。そのメッセージは真摯で重い。とてもじゃないけどエンターテイメントとして観られない。(観るのにちょっと覚悟がいる)
それらの真面目なテーマと、暴力と性がオブラートなしで描かれるところが何故だかフランス人受けするのだろうか。ある部分、北野武にも通じるけど。
ところでこの映画、製作はわずか12日、撮影スタッフは14名だったとどこかに書いてあった。低予算、限られた人数で精一杯いいものを創る見本のような監督だ。

映画館は200席ぐらいの小さなもので、お客さんは14時の回で30人ぐらいしかいなかった。平日だし、雪も降っていたから仕方ないか。しかもアジア映画だし、こういうメッセージ色の強い映画は、よっぽど物好き(失礼)じゃないと観に来ないんだろうな~。(お年寄りが多かった。しかもシニア割引があって、「サ トンブ ビヤン(ラッキー☆)」みたいに言ってたのが可愛かった☆シニアだと6ユーロ50。通常は8ユーロ。)

映画の感想は、重すぎて一口では言えないけれど、戦争を知らない人たちにその悲惨さは十分すぎるぐらい伝わると思う。ただ、それがこの作品で一番言いたかったことではないような気がする。(途中で反戦色が勝ってきて焦点がブレるけど)むしろ、ある夫婦の姿を描きながら人間の業の悲しさを描いている、こっちでしょう。
戦争というのは人間の表の皮をむいてしまい、醜い中身をむき出しにさせる要因に過ぎない。
ここで、起こってしまった過去の醜態についてその是非を議論しても始まらない。それは人類の起こした最大の汚点としてそこにあるのだから。
人間の本質は、結局は欲と本能でしかないんだということを痛感した。「食べること」「寝ること」「暴力」「相手を支配すること(優位に立とうとすること)」「所有すること」「虚栄」など。それらの本音を美辞麗句で飾って隠して見えなくするのが、豊かさであり平和であるということなのだろう。
「平和な」世の中では、ガツガツと欲望をむき出しにして生きることは恥ずかしい…という美意識で成り立っている。そこでは一番尊いとされているのは「愛」だろう。しかしそんな耳当たりのよい理屈は、戦争のない状態だから当たり前に信じられていることであって、人間というのは、まずは自分の欲と本能が満たされた状態でのみ相手をいたわれるものなのではないか。こう言ってしまうと身も蓋もないけれど。
自分が生きるか死ぬかの瀬戸際も経験したこともない、ぬくぬくした状態で歴史を振り返ってみても、そこにあるのは信じられない非常識な日常でしかない。(まだこの地球上には、戦争(紛争)をしている国があることさえ、平和な国にいたら想像できないのだから)

もうひとつ、決定的に現代と違うのは、男女の性差だ。結婚生活(社会全体もだけど)における女性たちの地位の低さよ。男は戦争に行かなければならないという点で圧倒的に不利だけれど、女は、その男たちの下に組み敷かれるだけの存在でしかないのだ。女の種類は母と女中と娼婦と子供しかいないと言っていいほどだ。
夫婦間では、妻は夫に逆らうことは許されず、自分の意見も言わず従い、その暴言や暴力にも耐えるのみ。現代の女性だったら、1日で嫌気がさすような相手でも、別れる自由さえないのだ。
だから変な話、女たちの底意地は悪くなったろう。愛情がなくて義務感と倫理観だけが夫婦を結びつけているような関係だからか、心の奥底には相手に対する憎しみが渦巻いている。「こんなになってまで、なんで生きてるの?」「あんたさえいなければ」と言いながらも、しぶしぶ相手の要求には従い続ける。しかもそこには「お国のために」という圧力までかかっている。貞淑さや、夫にどこまで尽くせるかまでもが、お国のためだ。
「どれだけその男が立派か」という尺度は、どれだけのことをして死んでいったか、どれだけの手柄を立てたかということのみで計られ、勲章や新聞記事になったというご褒美でしか自分を慰めることができないのだ。しかも敗戦になって、価値観がひっくり返ってみれば、戦争中の英雄は戦犯でしかない。(パンフレットにチャップリンの引用があった。つまり、平和な世の中では3人の人を殺めたら絞首台に上るしかないが、戦争中に1万人殺した人は英雄である…と。それが戦争なのだ)

キャストについては、ともかく寺島しのぶだけが目立っていた。彼女の感情を追いつつ、そこに一体化できないフシギさが常に付きまとって困っちゃったけど。戦争時代を知らないので、所詮その臨場感は想像の域を出ないのだ。夫に対する感情も、殺したいほどイヤなんだけど、憐憫さもある。いじめたいんだけど、誇りたい。仕返ししたいけど、要求も満たしてやりたい。殴りたいけど、抱いてもほしい…ってひらがなで書いた「おんな」のような世界なのだった。その、多分自分でもコントロールできないような感情の発露を表現できるのは彼女だけだっただろう。寺島さんのひとり勝ち!彼女の体当たりの演技がなかったら、この映画は成立していなかった。可愛いだけの女優じゃ全っ然ダメだし、変に色気がある人でもダメだ。この人の昭和顔と当たり前のように脱ぐのがいい!「また、あれですか?」みたいな感じで!普通に隣にボーっといそうなんだけど、奥底に秘めた狂気が見え隠れするような雰囲気の女。ホントにいい味出していたな~。
肝心の軍神さん役の人も、唸るだけだったけど、すごかった。(でも主人は「ああいうのは意外と簡単にできそうな気がする」とのこと。ほんとかい!)


ランキング

よろしかったら一押しを!
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ


コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリー
カレンダー(月別)
07 ≪│2017/08│≫ 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最近のコメント
リンク
最近のトラックバック
プロフィール

ikuko

Author:ikuko
栃木県宇都宮市出身。1993年2月よりフランス在住。現在パリ郊外に住んでいます。

フリーエリア
RSSフィード
FC2カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。