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文系擁護論

この間、アドリアンと長男の進路のことで話していた時に「文系がいいか、理系がいいか」という話になった。長男に関して言えば、フランス語がまず圧倒的にボキャブラリー不足なので、文系ではない。数学はできる方だけど、理科はパッとしない。あれれ?どっちでもない、どうしよう~。
「しかしやはりフランスでは理数系じゃないの?」と私が言った不注意な一言が、アドリアンに以下のプチ論文を書かせてしまった。題して「文系の弁明」!フランス語で書かれていたので、私が訳し、加筆、推敲しました。



文系の弁明                     
                                
フランスでは、日本でいう高校の1年目(訳注①)に、自分がその教育課程においてどの分野に進むかの選択を迫られる。それには、文系、理系、経済の3つの過程がある。この選択は、高校3年時の最後に全国一斉に行われるバカロレア(訳注②)や、その後の大学のコースにまで重要な影響を及ぼす。

ところで、昨今では、「文系は将来を考えると何の役にも立たない。唯一、将来有望なのは、理系である(もしくは、ぎりぎりで経済も)」というようなことが取り沙汰されている。この考察は、かの哲学者プラトンに言わせれば、彼が「ドクサ」(訳注③)と呼んだ単なる臆説に過ぎない。言わば、筋道だった理論も主張もない思いこみだ。そしてこの思いこみは、井戸端での軽い議論に似ており、問題への浅薄な知識を露呈している。

もし、その学生が医者かエンジニアにでもなりたいのなら、議論する余地はなく理系に進むがよい。それは自然なことだし、常識的だ。
しかし、共和国の継続を保障し、この国の未来を担うエリートになるためには、文系であることが必須なのである。エリートを育てるグランゼコールには、高級官僚を輩出する国立行政学院(ENA)、判事や検事になるための国立司法学院、大学教授になるための高等師範学校などがあるが、それらの入学試験の科目は、一般教養、法律、ヨーロッパ法、経済学などの、文系的要素の強いものだ。理系科目はオプションで選択できるにすぎない。

もうひとつ、これもよく耳にする愚かな思い込みが、「文系のバカロレアは理系のそれに比べて取得するのが簡単だ」という臆説である。しかしはっきりとした数値が、逆の真実を示している。
2009年度の理数系バカロレアの合格率89.6%に対し、文系バカロレアの合格率は87.1%であった。この文系の試験科目は、特に難解な哲学(係数 7)(訳注④)を含む。
哲学の試験とは、1+1=2のように明快な答えが出るものではなく、論文形式なので、非常に点数が取りにくい。しかも、この係数(倍数)7というのは、取得した点数が7倍で計算されるという意味で、万が一これで失敗すれば、バカロレア自体の合格も危ぶまれる。
 ちなみに私がこの哲学の試験を受けた時の問題用紙には、「われわれは国家にすべてを期待すべきか?」という一問のみが書かれてあった。この質問に答えるのに与えられた時間は4時間、使用してよいのは、一本の万年筆とおのれの頭だけであった。それ以外のものは、いかなる資料もテキストも認められなかった。

フランスといえば哲学だ。誰が何と言おうと哲学なのだ!

フランス革命は、ルソーなどの啓蒙主義者がいなければ起こらなかっただろう。サルトル、フーコー、ブルデューの著書は、一体何ヶ国語に訳されているだろう。

 しかし、実際のところ、理系、文系といった区分けやどちらがより優秀かというような論争はさほど意味がないように思われる。
 古代ギリシャでも、思想家たちは哲学者であると同時に科学者であった。アリストテレスは、『詩学』のような文学的概論を出版すると同時に、『天について』という科学的概論も残している。
 またポール・ヴァレリーは、数学者であり詩人だった。
 日本人でも、例えば、安部公房は、東大医学部を卒業しておりながら、20世紀の日本の文壇を代表する偉大な作家といえよう。文学のために医者になる道を捨てたというのは、全く興味深い。
 
 社会の豊かさは、まさにこれらの学問の融合や補充性にある。科学者がいなければ、もちろんのこと発展は望めない。しかし哲学や文学がなければ、日常生活は何と味気ないことだろう。

 もし何らかの理由は問わず、私が無人島に住まなければならないとしたら、私が持っていくのは顕微鏡ではなく、ランボーの詩集に違いない。

(訳注)①フランスの教育は、CP(日本で言う小学校1年生)CE1(小2)、CE2(小3)、CM1(小4)、CM2(小5)と小学校が5年制、中学は4年制で、6年生(小学校6年生)、5年生(中学校1年生)、4年生(中学校2年生)、3年生(中学校3年生)となり、高校に入ってからは2年生(高校1年生)、1年生(高校2年生)、その後1年間の終了学年(高校3年生)があってバカロレア(高校修了試験=そのまま大学、大学院の入学にかかわる)の受験となる。
②Baccalauréat :バカロレア /大学入学資格試験またはその資格。Bac(バック)ともいう。この資格の取得後に何年教育を受けたかでbac+2とか、bac+4などという。高等教育修了の一つの目印になるもの。
③La doxa :ドクサ(ギリシャ語)/学的な理性的知識であるエピステーメー(=認識)に対立させて、単なる感覚的、知覚・日常的意見をさして読んだ語。憶測、臆見。
④バカロレアの採点方法は特殊で、各過程においての選択科目も違えば、それらの採点上の倍率(点数を何倍かにして採点される)も違う。もちろん各専門分野の倍率(比重)が高くなる。




≪訳者の補足として一言≫
 本人は、全文を旧かな遣いで訳してほしいと言っていたので最初はそうしたのですが、訳してみたら読みにくいので現代文に直しました。
 バカロレアの哲学の問題。謙遜していましたが、アドリアンはこの問題で20点満点の18点を取り、バカロレア自体は「秀(トレ ビヤン)」で合格したそうです。(彼の高校では文系100名中たった3名が秀だったそう。)
 私は、このひたすら論文を書かせるというテスト形式をみっちりとたたきこまれる、フランスの教育制度に感心します。これを小さい頃から訓練していると、自分の考えをまとめる力や人と議論する仕方を学ぶだろうと思うのです。逆に、○×式やマークシートのテストばかり受けていると、他力本願で自分で答えを見つける努力をしない人になりそうです。(上記の哲学のテストでいえば、18点を取った答案というのはどうだったのか、読んでみたい気もします。)
 
 アドリアンが最後に言ったように、やはり現代社会では、ますます文系とか理系とかの枠なく、ある程度バランスよくどちらの分野にも知識のある人材が求められていると思います。それでもあえて、文系がいいんだよ!というアドリアンの熱い説に、私も一票を投じたくなりました。
 ちなみに、私が無人島に流されるとしたら、持っていくのはPCとスカイプの道具かな~。これって文系、理系、どっちなんでしょうね?(ネットが使えるのが前提ですが!)



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文理系ということで

文系・理系って、単に受験用の区別だと私は思っています。
文系・理系がフランスでも日本と同じように話題になっているのですね!

医者やエンジニアなどの専門職になるには確かにそこに必要な学問が必要ですが、例えば臨床医には数学より患者を納得させる国語の方が勉強するに必要と思うので、数学・化学・生物などが理系で国語・社会などが文系っていうくくりは便宜上って感じが否めません。

正直、社会人になって一般の会社員では理系・文系関係ないというのが実感です。
間違って(これには爆笑のエピソードあり!)高校2年生のクラス変えで理系クラスを選択してしまった私ですが(興味もない数Ⅲまで必修でやらされた(涙))良かったことは仲良い友達が医者や化学者など全く違う分野にいるもので、今は会うたびに話題が広がって会話が楽しいってことでしょうか。
一番数学のできたクラスメートも東大に行って末は数学者か!と思ったものの結局裁判官になっています。
だからKも数学得意なら理系に行っても、はたまた文系でも職業の選択肢はたくさんありますよ。
アドの例にも色々ありましたがレイチェル・カーソンが生物学者であり作家であるように理系も文系も実社会では各分野絡み合って、偉人を輩出してますしね。
新総理の菅さんも理系だし、あっ鳩山さんも理系だった(笑)!

旧仮名使いで訳してもらわなくって助かりました!
旧仮名は文学作品にはいいかもしれないけど、論文系には現代語の方がわかりやすいです(ってアドに云っておいて)。

ちなみに私が無人島に行くなら、持っていくものは「食べられる野草図鑑」かなっ!?

C.O.様

本当におっしゃる通りです。日本でも、最近はコンピュータの最新分野で理系、文系のくくりを取っ払った学部が出来ていると聞いたことがあります。それに社会に出たら言わずもがな、ですよね?
しかし私はバキバキの文系なので、(高校の時、数学は10段階評価で2ぐらい!理科はいつも最低点。あー恥ずかしい!)、じつは理数系の人が憧れで~す☆Kにはお医者さんかパイロットになってくで~といつも無用なプレッシャーを与えています。

No title

以前から気になっていたコラムだったのですが、今日初めてゆっくり読みました。短い論文ですが、知性あふれたものだと、感心しました。ただ私は文科系擁護論には必ずしも与しません。(私も大学は法科ですし、頭の構造は文科系と思いますが) フランスの社会のシステムが、文科系の人たちをこの国の政治、行政におけるエリートを育てるようになっているからに過ぎないと、思います。筆者もその点は分かっているようで、区分け、どちらが優秀かを議論するのは、意味がないと言っておられます。
フランスにせよ、イギリスにせよ文科系の人たちが政治、行政のリーダーに育っていくように社会的システムを、構築しているのに対し、日本は全く”なまくら”です。今の日本の社会からは残念ながら、社会を引っ張っていくリーダーが出てくることには悲観的にならざるを得ません。メディアの力が相当強くそれに迎合する一般大衆に対し、強い説得力をを発揮する人たちを育てようという社会環境が構築されていないことが、理由です。その意味では、文科系擁護論如何にかかわらず、フランス、イギリスがうらやましい気がします。

もうひとつコメントしたかったのは、訳者が、普通の主婦であると拝察しますが、本当にしっかりした翻訳をしていることです。訳者というのは、単に言葉がわかっているだけではなく、広くその背景等も十分理解していないと読むに足る翻訳は、できないものですが、この訳者の
翻訳は読む人をうならせるものを持っていると思います。

wine lover 26 様

丁寧なコメントをどうもありがとうございました。

しかし、過分なおほめの言葉!実際私のフランス語は大したことなくて、お恥ずかしい限りです。(知識とかもないので)

日本にリーダーシップを持った指導者がなかなか出ないのは、やはり「和を尊ぶ(?)」教育のせいでしょうかね~?討論とか、弁論とかも、訓練しないと出来ないものでしょうし、自分の考えをはっきり言うということさえ、出来ない人が多い気がします。まずは批評精神を養うということにかけて、フランス人の右に出る人たちはいない気がします。(まあ、だからストが多いんでしょうけど!!)

またコメントくださいね!!
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栃木県宇都宮市出身。1993年2月よりフランス在住。現在パリ郊外に住んでいます。

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